マルチタスクな仕事の作法
- Akihiro Goto
- 2021年6月19日
- 読了時間: 6分
マルチタスクとは、複数の作業を同時にもしくは短期間に並行して切り替えながら実行することをいう。リモートワークにより物理的ロケーションと仕事が切り離されていき、マルチタスク的な要素は我々の仕事の中で以前より増している。

マルチタスクのメリット・デメリット
私はマルチタスク肯定派だが、マルチタスクが万能なわけではなくデメリットもある。会社設立以来、ずっと複数のクライアント、複数のプロジェクトを担当させて頂いており、マルチタスクな働き方をずっと続けているわけだが、注意すべきことも多い。
私が考えるマルチタスクのメリット・デメリット
【メリット】
・特定タスクの待ち行列やボトルネックを作らず、全体の生産性を向上できる。
・異なるタスク間で知識や経験、人脈の共有(シナジー)を活かせる。
・個々のタスク(プロジェクト)をビジネスとして捉えた場合、リスク分散になる。
・一定期間における経験インプットを最大化でき、キャリア成長が速い。
・飽きがこない。
・自分のペースでタスクを遂行することができる。
【デメリット】
・集中力が途絶えることがある
・タスクを切換えるときに負荷がかかる(スイッチングコスト)
・混同や誤解により、ミスを起こしやすい
・キャパシティオーバーを起こし、疲弊する場合がある
自分自身がマルチタスク肯定派なためかメリットの方が多く思いつくが、一般的には、マルチタスクは決して生産性が高くないと言われている。これは、マルチタスクそのものの問題というより、マルチタスクに向いている人とそうでない人がいることに起因するものと考えている。
私のマルチタスクは、シングルタスクの切替の連続
10人の話を同時に聞くことができたという伝説をもつ聖徳太子は、まさにマルチタスクのプロフェッショナルだったことになるが、そんな人は稀有である。例えば、複数のリモート会議の時間が重複したときに、2台のPCを立上げ、それぞれに同時参加するという人がいるが、実際にこれをこなせる人は少ないと思う。私も過去にトライしたことがあるが、自分にはできないと悟った。なぜなら、一方の会議に注意すると、別の会議の音声は認識できなくなるからだ。
従って、私のマルチタスクは聖徳太子のような真(?)のマルチタスクではなく、シングルタスクを細かく繋ぎ合わせ、頻繁に切替えているパターンだ。多くの人が聖徳太子ではないとした場合、このシングルタスクの切替をいかに合理的に行うかが、マルチタスクを実践する上でのコツだと言える。
マルチタスク成功のヒント
完全な主観であるが、私が考えるマルチタスクを成功させるための能力を挙げてみた。
①全体俯瞰
どんなタスクが並行して走っているのか、それぞれのタスクの工数や納期、優先順位などを全体として常に把握しておくことが求められる。
②タスクのロジスティクス計画
タスクは、大きく分けて「自分が実施するステップ」と「自分以外の人が実施するのを待つステップ」の2つに分けられる。例えばAタスクとBタスクを同時に進める場合、AとBでこのステップがうまく交互にスケジュールされれば、それぞれを一つずつ進める場合よりも早く2つのタスクを完了させることができる。つまり、自分にとって、そして(これがもっと大切であるが)自分以外の人にとって時間の待ち時間、アイドリングが発生しないように組み立てることが重要である。
③タイムマネジメント
特定のタスクに時間をかけ過ぎてしまうことで他タスクの遅延を招いたり、全体のキャパオーバーを生じたりさせないよう、綿密なタイムマジメントが求められる。
時間ほど、有限固定なリソースはない。タスク(プロジェクト)に投入するリソースの中で、人的リソースやお金は途中で追加するなどの調整が可能だが、時間には調整の余地がない。言い換えると、時間が固定であるという制約により、他リソースを調整して目標達成を図るのがプロジェクトマネジメントである。また、プロジェクト納期の延長は、時間リソースを追加投入するという解決法であるが、これを許さないプロジェクトは多い。
④コミュニケーション
複数のプロジェクトを兼務する場合、各プロジェクトのステークホルダーは異なり、それぞれにおいて異なる人間関係、人的ネットワークが形成されている。プロジェクトによっては、メンバ全員がマルチタスクで各々異なるプロジェクトを掛け持ちしていることもあるが、多くのメンバは一つのプロジェクトに専任というケースも少なくない。彼らは常にそのプロジェクトが第一優先であるわけだから、自分がマルチタスクであっても、彼らとのコミュニケーションに支障が出ないような仕事のやり方が求められる。タスクのスケジュールを組む時には、それぞれのステークホルダーの納期に対する期待値を必ず事前に把握し、その期待にミートできるように配慮しなければならない。
⑤デジタルデバイスの活用
マルチタスクの程度にもよるが、以上に挙げたことを自分の脳の中だけでマネジメントするのは不可能である。そのため、最近では当たり前となってきたM365、Slackなどのコラボレーションツールやスマホ端末をいかに使いこなすか、が重要になってきている。クライアントや仕事相手に対し、自分とのコミュニケーションや共同作業が相手目線から見てタイムリーであり、自分がマルチタスクであることによる不都合を感じさせないようにしなければならない。誰が今、自分を探しているかを知るためにデジタルデバイスの役割は大きい。そしてもっと重要なのが、相手が自分を探している理由の緊急度に応じて、適切にアクションを起こすという動作である。
⑥割り切る能力、忘れる能力、固執しない能力
マルチタスクを成功させる上で、これが最も暗黙知でありながら、最も重要な能力かも知れない。コンピュータと違って人間は、タスクを実行するときには感情や思考が必ず影響する。あるタスクを実行するときに、他のタスクのことを気にかけていては集中力が落ち、生産性が下がってしまう。あるタスクを実行している時には、他のタスクの影響を極力回避するために、他のタスクのことを忘れ切ってしまう能力が必要である。いくら一時的にデジタルデバイスを遠ざけたりして外部からのアクセスを遮断しても、自分の頭の中で複数のタスクがぐるぐる回っていては意味がない。何かが気になっていても割り切る、固執しないことである。
自己分析だが、上記の中で自分にとって最も難しい項目は⑥であると思っている。色々なことを把握して気にかけるようにしている(上記①~⑤の能力)がために、⑥の実践をより難しくしているとも言える。
プロジェクトマネジメントへの応用
マルチタスクに求められる能力は、ほぼそのままプロジェクトマネジメントに求められる能力として当てはまる。プロジェクト自体が、様々なタスクで構成されるわけだから、当然と言える。唯一の違いは、プロジェクトはタスクを作業や担当者レベルで十分に細分化することでタスク間を独立させ、シングルタスクの集まりにまで仕立てることであり、それによって上記⑥の課題を克服するわけである。
プロジェクトマネジメントを実践する上で、この考察が何かのヒントになれば幸いである。
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