3人以上の定期的な会議はバグ
- Akihiro Goto
- 2023年1月17日
- 読了時間: 6分
「Meetings are a usually a bug.(会議はたいてい、バグです)」
1月4日、ECサイト構築を手掛けるカナダのShopify(ショッピファイ)のトビアス・リュトケ最高経営責任者(CEO)が投稿したつぶやきが、世界的に注目を集めた。

コロナ禍で増えたリモート会議
コロナ禍で急速に普及したテレワークの恩恵で、人々は場所に縛られず、通勤から解放され、自由に働けるようになる、はずだった。だが、現実はむしろ逆で、急増するリモート会議で埋め尽くされる人も多いのではないだろうか。Outlookのようなスケジュール共有が進んだおかげで、パズルをはめるように隙間時間に会議が次々にセッティングされるようになった。また、物理的な人数制約と移動時間がなくなったことも、会議の増加を助長している。
大胆な会議ダイエットの施策
今年初めにショッピファイが、この「多すぎる会議」に大鉈を振るう3つの大胆なルールを打ち出した。
・3人以上の定期的な会議は廃止する。
・水曜日をノー会議デーとする。
・50人以上の大規模な会議は、木曜日11時~17時に限定する。
さらに従業員に対し、大人数が参加するチャットからの脱退も促した。
リュトケCEOは「会議はバグだ」と言い切っており、テレワークの弊害で多すぎる会議に辟易している人にとっては、興味深いニュースではないだろうか。
この施策が功を奏するかどうかはまだ答えは出ておらず、ショッピファイも2週間の「冷却期間」を経て、社員は中止した会議を再開すべきかを検討するそうだ。
ノー会議デーを設定したり、大規模な会議を牽制するというのは、素直に理解できるが、私が非常に注目しているのは、「3人以上の定期的な会議は廃止する」という施策だ。というのは、日常的に我々が行っている会議の多くは、この類に含まれるからだ。
プロジェクトマネジメントに会議はつきもの
プロジェクトマネジメントにおいて、会議体の定義と運営は重要な要素である。作業進捗や課題をモニタリングするための週次定例はごく一般的であり、その必要性を疑うことはこれまで殆どなかったが、この週次定例も典型的な「3人以上の定期的な会議」に相当する。プロジェクト規模が大きいほど、プロジェクト内には様々なチームが登場し、各チーム内においても週次ベースの会議は当たり前のように設定されるため、定期的な会議というものはプロジェクト規模に応じて当然どんどん増えるわけだ。
現在関与しているいずれのプロジェクトにおいても、これらの会議を全て廃止するというのは現実的だとは思えない。ただ、全ての会議が有効であるか、効率的であるかというと、決してそうではないという疑問も持っており、ショック療法としての会議廃止の号令は、今、自分たちが無意識のうちに繰り返している常識を疑う良いきっかけになり得るとも言える。
聞いているだけの会議は、必要?
会議には大きく2種類があり、自分自身がファシリテーションをしたり、会議のコアメンバーとして多くの発言をする会議と、情報共有のために終始聞く方に回る会議がある。これは会議における自分の役割や、会議の内容に対する関与度に依存する。セミナー形式でない限り、本来、会議の参加者は誰にも発言の権利が平等に与えられているわけであるが、実際は、会議の人数が増えるほど、聞くだけの参加者も多くなっていく。リュトケCEOが「3人以上の会議」を槍玉に挙げたのは、3人集まれば、誰か1人は聞くだけのポジションに回る可能性があるからだろう。
広く情報共有を図る目的や、何かのトピックを議論するときに関係者が全員揃っていた方がいいとの考えから広くメンバーを集めることにより、会議人数はどんどん増えていく。特にリモート会議の普及により会議室スペースの物理的制約や、場所の制約が解放されたことにより、この傾向は助長されてきたと言える。
しかし、会議の参加者人数を増やすことは、労働生産性を手っ取り早く低下させる最も簡単な方法だ。1時間の会議であっても、20人が参加したら、延べ20時間(2.5人日)の労働時間を消費することになる。こう考えると、会議自体の廃止の前に、会議の出席者を再考することも大いに意味があると思う。
もしも、会議が一切なくなったら?
もし本当に、3人以上の定期的な会議が禁止されたら、自分はどうするだろうか?考えたこともなかったが、これまでの常識を見直す良い機会なので、少し考えてみた。
この仮説は、オフィスへみんなが出社している状況なのか、メンバの殆どが在宅勤務、リモートワークが主体の状況なのかで、答えが異なってくる気がしている。前者であれば、メンバ間のコミュニケーション機会は会議がなくても自然に創り出すことができるので、定期的な会議の禁止は、あながち無茶な話ではないかも知れない。しかし後者の場合は、定期的な会議がなければ、コミュニケーションはメールやチャットに頼ることになるが(勿論、マンツーマンでの電話やビデオ通話はあるが、頻繁にしない人が多いだろう)、メンバ間の情報共有、意思疎通、そして意思決定については会議形式に比べて効率とクオリティが下がってしまうリスクがあるように思える。
会議の出席者の中で、頻繁に発言するメンバは固定されてくることが多い。感覚的には、8割のメンバは殆ど発言することはない。積極的に自分の意見を述べたり、色々な問題を指摘することは望ましいことであるが、本当に重要なのは発言の内容である。逆に会議でだんまりを決め込んでいるメンバでも、実は秀逸なアイデアや見解を内に秘めていることだってある。ただ本人の性格や立場によって発言を控えているのかも知れない。私は、プロジェクトマネジメントにとって会議体の定義とそのファシリテーションは重要なスキルセットだと信じて疑ったことはなかったが、果たして自分がやっている(やってきた)会議は効果的なのか?効率的なのか?そして本当に必要なのか?
プロジェクトマネジメントの根本がひっくり返る予感
定例会議の不要説とは別に、プロジェクトマネジメントの方法論がより確立されてルールやツールが進化すればするほど、機械でもできる仕事、つまり「AIで代替できる職業」の部類に近づいているとも言える。会計士や税理士の仕事がAIに取って代わる職業の上位に並んでいるのを見て、憤慨している会計士や税理士の方もいらっしゃるだろう。プロジェクトマネジメントを得意とするコンサルタント職も、近い方向へ進んでいるのかも知れないと私は思い始めている。「2つとして同じプロジェクトはないのだから、そんなことはない」「プロジェクトは人的コミュニケーションが重要であり、AIなんかができることではない」そんな声があちこちから聞こえてきそうなのだが、今のAIの進化を考えれば、目を背けることはできない気がしている。
そんなことを漠然と考えていたときに、この「会議不要説」のニュースが飛び込んできて、いよいよプロジェクトマネジメントのこれまでの常識がガラガラと崩れていく音が聞こえてきた。
では、どう変わっていくのか?我々はどう変わっていかなければならないのか?今年MixturePlusがチャレンジするテーマとして、これから考察と行動を重ねていきたい。
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