死ぬまでにお金を使い切る
- Akihiro Goto
- 2022年2月25日
- 読了時間: 5分

ここ最近は、資産運用に関する本を続けて読んでいるが、今回の「DIE WITH ZERO(死ぬまでにお金を使い切れ)」は、前回コラムで紹介した「サイコロジー・オブ・マネー」とは真逆に近いメッセージが詰まっており、非常に興味深い内容であった。
本書が教えてくれるお金のルール
以下のような目次で構成されている。どの章も、興味深いタイトルが並んでいる。
「今しかできないこと」に投資する
一刻も早く「経験」にお金を使う
ゼロ(貯金残高)で死ぬ
人生最後の日を意識する
子供には死ぬ「前」に財産を与える
年齢に合わせて「お金・健康・時間」のバランスを最適化する
やりたいことの「賞味期限」を意識する
45~60歳に資産を取り崩し始める
大胆にリスクを取る
多くの人が、死ぬときが一番お金持ち
老後に対する不安を少しでも解消するために、我々はできる限りお金を貯めておこうとする。自分のためだけでなく、子供にもきちんと財産を残しておきたいと考える人も多いだろう。その結果、年齢を重ねても預金残高が増え続け、死ぬ時がピーク、なんて人もいるそうだ(それはそれで恵まれているのだが)。
しかし、お金は当然、あの世へ持っていくことができない。お金は手段であり、お金を使って自分がしたいことをすることが本来の目的であるはずだが、そのしたいことのために使う機会を逃したまま死んでいくことになる。
自分は死んでしまっても、家族に財産を残せるではないか?という意見に対しても、筆者は明快な反論を展開している。多くの場合、自分が死ぬタイミングが、子供に財産へ与える最良のタイミングであることはなく、もっと早く(死ぬずっと前に)財産を譲るべきだという。なぜなら、寿命が伸び続ける現代において、自分が死ぬときに子供たちもそれなりの年齢に達しており、ライフサイクルにおいて子供たち(とその家族)が最もお金を必要とする時期は過ぎてしまっていることが多いからだ。
慈善団体への寄付も同様なことが言える。慈善団体が取り組む社会課題は、今起きていることであり、慈善団体にとって、寄付をしてもらうのであれば早い方が望ましい。従って、死ぬまで待って寄付をするというのは、効率的な寄付の方法ではないのである。
やりたいことには「賞味期限」がある
とても感銘を受けたメッセージである。私も色々なことを「いつかやってみたい」と漠然と思っているが、それを実現できる確率は、日に日に少なくなっているのが事実であり、中には望んでもできなくなってしまうこともあり、まさに賞味期限を迎えてしまうわけだ。年を取るにつれて体力の衰えは誰もが避けることができず(ただし、健康への意識と努力次第で、体力をできるだけ維持・増強することはできる)、激しいスポーツや体に負担のかかる経験は徐々にチャレンジが難しくなっていく。
人生で一番大切なことは、思い出をつくること
この本が最も主張したいこと。シンプルだが、否定することのできない真理である。人間の頭脳は、80年という長い時間を生きていくために、過去の記憶をどう処理するかという点で実によくできていると思う。辛いこと、悲しいことに直面した時、暫くの間は頭の中を埋め尽くしてしまうが、時間が経つにつれて徐々に薄らいでいくものだ。若い時に、とても大変なプロジェクトで苦労していた時に、上司から「どんな辛いことでも、いずれ必ず過去になる」と励まされたことを今も鮮明に覚えている。
一方、楽しかったこと、成功して気分が高揚したことの記憶は、ずっと頭の中に残り続けている(もっとも、記憶の正確さは徐々に低下することはあるが)。この本の中で最も面白かった例え話がある。ある人にとって大変貴重な体験があり、その記憶を消すことの代償としてお金を払うと言われたら応じるか、という問いだ。多くの人が、お金をもらう機会を失っても、絶対に素晴らしい体験の記憶を消されたくない、と考えるというもので、私自身も、過去のかけがえのない体験や経験は、お金では買えない確かな価値だと思っている。
つまり、人生の中でこつこつと貯め続けるべきことは、お金ではなく、思い出なのである。その思い出を積み重ねるために、お金は存在するのである。
リスクを取らないリスク
ある行動を取ったときの失敗リスクが限られており、成功によって得られるメリットがはるかに大きい場合は、行動しないことの方が大きなリスクとなる。お金を使えば、もちろん銀行残高は減る。しかし、そのことで得られるリターンが自分にとって大きいのであれば、それは価値ある支出、投資である。勿論、失敗してリターンが得られないこともあるが、ここは前回コラムで紹介した「サイコロジー・オブ・マネー」と共通するところであり、一定のリスクは損失ではなく、投資にチャレンジするために必要な入場料なのである。ディズニーランドで一日楽しむには、入場料が必要なように(ディズニーランドに入る時に支払う入場料を誰も損失だとは思わない)。
あなたの判断には、あなたの価値観が反映されている
私たちは、朝起きてから寝るまで、一体いくつもの選択をしているのだろうか。どんな些細なことも含めて、自分自身による選択の積み重ねで一日の行動が決まる。数百回、ひょっとしたらもっと多いかも知れない。
ある瞬間、自分には選択肢はないと思っても、その状況に至ったのは過去の選択の結果である。また、どんなことでも、やる・やらないという二択はあるのだ。より良い人生を生きるために、自分にとって賢明な選択を常に意識することが必要だ。お金は、より良い選択をするために使うことが大切なのであり、貯め続けるためにあるわけではない。お金を何に投資するのか、その答えはお金自身に投資して増やすことだけではなく、自分自身の経験に投資することで素晴らしい思い出を増やすことが正解なのかも知れない。
お金と賢く付き合っていけるようになりたい。
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