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事実に基づいて世界を正しく見る

  • 執筆者の写真: Akihiro Goto
    Akihiro Goto
  • 2022年2月6日
  • 読了時間: 11分

事実を歪曲してしまう、自分自身の10の思考本能

データドリブン、定量評価、客観主義、、、データ(数値)を拠所とすることの重要性はますます支持されるようになっている。プロジェクトマネジメントにおいても、データに基づく状況評価は不可欠である。

データが確かであることを前提とした場合に、そのデータをどのように解釈するか、これによってデータの向こう側にある事実、世界を正しく見ることができるかどうか、大きく左右することになる。その原因は、殆どの場合、自分自身の中にあるのだ。


事実を歪曲してしまう、誰もが持っている10の思考本能は次の通り。


分断本能    物事を正反対な2つのうちいずれかだと決めつける

ネガティブ本能 物事はどんどん悪くなっていると思い込む

直線本能    同じペースで増え続ける(減り続ける)と思いこむ

恐怖本能    恐ろしいと感じることとリスクの程度は一致しない

過大視本能   1つの数字だけ見て決めつけてしまう

パターン化本能 あるパターン(法則)を他の物事にも適用してしまう

宿命本能    物事は今も昔もずっと変わらないと信じている

単純化本能   一つの視点だけで物事を理解しようとしてしまう

犯人捜し本能  誰かを責めれば問題は解決すると思い込む

焦り本能    今すぐ手を打たないと手遅れになるという誤解


日頃、我々が目にする耳にする情報・ニュースは、それ自体が事実であっても、この10の思考本能によっていとも簡単に歪曲されてしまい、間違った世界観を自分自身の脳にこつこつと植え付けている。自らこれらの本能の存在を自覚し、真摯に対応することができれば、もっと正しい世界を理解することができる。

分断本能から逃れるには?中間部分の存在に注目する

我々は、世界を見るときに両極端の2つをクローズアップして、無意識のうちにいずれかに分類しようとすることがある。富裕と貧困もそうだ。富裕層でない人は全て貧困層ではない、逆も然りである。富裕層も貧困層も、全体から見ればごく少数派であり、大多数の人々はこの中間に存在している。しかし、特に富裕層の人々は、自分たちと同じ生活水準にない人々は多かれ少なかれ、経済的理由により不自由を強いられていると誤解しがちである。


2つの極端な状態のみが存在することは稀であり、殆どの場合はその両端を繋いでいる中間の存在があり、それが大部分であることが多い。極端な2つの数値だけで何かを語ろうとしている人に出くわしたら要注意である。


ネガティブ本能から逃れるには?悪いニュースの方が広まりやすい。

人々は、ドラマティックなニュースについつい関心を寄せる。事件・事故・災害・戦争といったネガティブなことに注目してしまう。すると、報道番組は自ずとネガティブなニュースで埋め尽くされることになる。ジャーナリストを責めているわけではない、大衆の気を引くのであれば、そうすることが彼らの使命でもあるからだ。すると人々は、世の中はますます悪くなっている、物騒になっている、と誤解してしまう。


悪いことが起きている一方で、良いことも沢山起きている。むしろ殆どの場合は成功しているのに、極まれに失敗した時のことを大々的に取り上げるのがメディアである。良いことはニュースになりにくい。良くなっていく変化は少しずつだから人々は気付きにくい。しかし悪くなっていく変化やネガティブな出来事は人の目につきやすい。目につきやすいからと言って、全てが悪い方向へ向かっているわけではない。


ネガティブな出来事、事件・事故・災害・戦争はもちろん起きない方がいい。それをなくす努力は大切である。何か一つのネガティブな出来事を取り上げて、これまでの政策や行動やアプローチを否定することがあるが、同時に、良くなっていることへの貢献度も公平に評価すべきである。「悪い」と「良くなっている」は両立するのだ。


直線本能から逃れるには?なんでも直線グラフのように変化するわけではない。

世界は、異なる物事の間に色々な相関関係が存在する。例えば、国別の統計では、所得が上がると子供の出生率は下がり、平均寿命は高くなる。一見関係のないと思える事象が結びついていると知ることは大変面白い。


2つの変数で2次元のグラフを作成すると、右肩上がりになったり右肩下がりになったりする。我々が最初にイメージするのは、直線的な関係である。線形関係と呼ばれる、1次関数で表現できるタイプ、y=Ax、の世界である。

この直線的な関係は、実は現実の世界では決して多くはない。例えば、子供は成長すると年齢とともに身長や体重が増えるが、ずっと増え続けるわけではない。高速道路の通行料金も、距離が長くなれば料金も高くなるが、徐々に割安になっていく。勤続年数が増えれば給料も右肩上がりに増えていくといったことは、もはや過去のこととなっている…このように、直線的な変化を見つける方が難しいのである。


従って、データや物事のごく一部の変化を切り取って、その前後や周辺で起きていること、或いは起こるだろうことを予測するのは要注意である。


恐怖本能から逃れるには?「恐い」と「リスク」は異なる

人々は、身体的危害が及ぶことを「恐ろしい」と感じ、自然と目がいってしまうものだ。プロジェクトマネジメントでも登場する「リスク」というのは、起きた時の影響度の大きさと起きる発生確率の掛合せにより、そのリスクにいかに備えなければならないかの優先順位を決定する。なぜなら、将来起こり得るリスクの全てに対処しようとしたら膨大なコストが必要となり、プロジェクトマネジメントどころではなくなってしまうからである。


我々が毎日、事件・事故・災害といった「恐ろしい」ニュースをメディアから知り、それらから逃れることが自分のためのリスク管理だと誤解してしまう。飛行機は統計的には最も安全な交通手段であるが、飛行機事故を目にして危険だと思い込み、もし長距離を車や船しか使わず移動することになれば、統計的にはその方が事故に遭う確率は高くなる。


恐怖でパニックになってはいけない。正しい判断をするためには、パニックが収まるまで待った方がよい。


過大視本能から逃れるには?一つの数字だけで決めつけない

数字は、世界で起きている事実を知るためにとても重要な情報だが、どのように受け止めるかによって大きな誤解を招く危険もはらんでいる。数字を色々な角度から見る必要がある。


まず、比較をすること。一つの数字だけを見て、ただ大きい、小さいと安易に結論を出してはいけない。


次に、80:20ルールを応用しよう。項目が並んでいる場合、上位の限られた項目だけで80を占めることが多く、残り20はどれだけ項目数が多くても、全体に対しては影響は小さいため、80を占める大部分に注目すべきである。


そして、割り算である。色々な数値を「一人あたり」に換算するなど、2つ以上を比較するときに、数値の絶対値だけでなく、母数を統一して同じ条件下で公平に評価することが重要である。

パターン化方法から逃れるには?あるパターン(法則)を安易に適用しないこと

ある普遍的な因果パターンや法則を見つけることは、人類の進歩にとって重要な武器である。我々は、新しいことにぶつかったときに、このパターンや法則を引っ張り出してくることで状況を把握し、対処するための時間と労力を大幅に効率化することができる。


しかし、適用の仕方を間違えると、物事を誤った角度から解釈してしまうことも留意しておかなくてはならない。そのためには、パターン化するときの前提となる「分類」を常に疑ってみることが役に立つ。


・分類(集団)が大きすぎて、パターンが全てに当てはまらないのではないか?その場合は、細かく分類を分けてみる。

・違う分類(集団)の間で共通項が存在しないか?存在する場合、分類自体を見直す必要があるかも知れない。

・違う分類(集団)の間での違いにも注目する。その違いによって、パターンが通用しないことを意識していく。

・「過半数」に注意する。過半数は半分より多いというだけで、51%と99%では大きく状況が異なる。

・強烈なイメージは頭に残りやすい。そのパターン(法則)が例外であることもある。

・自分自身が信じるパターン(法則)が普遍であると思い込まないこと。状況が違えば(状況が同じでも)、もっと賢いやり方があるかも知れないと謙虚に考え、それを探る好奇心をもつこと。


宿命本能から逃れるには?変わらないと思うことも、ゆっくり変化している。

「今も昔も変わらない」どこか微笑ましい言葉である。社会や技術の変化はますます加速し、人の価値観も急速に変わってきている。その中で、今も昔も変わらないものには安心感を覚える。変わらないのであれば、それに対処する我々の行動・態度も変える必要がない。


しかし、世界の殆どの物事は少しずつ変わっている。今日の冬の寒さが明日も続いたとしても、冬は必ず終わって春が来る。今日の自分と明日の自分は変わらないと思っていても、確実に年を重ねている。プロジェクトマネジメントにおいても、状況変化をタイムリーに察知することは重要な要素であり、進捗をモニタリングするときの間隔が短すぎると、この変化を見逃してしまうため、適度な間隔をもつことが有効であったりする。


毎年の変化がわずかであっても、数十年では大きな変化が生まれる。従って、我々が若い頃に学んだことはもはや賞味期限が切れていることが少なくなく、知識のアップデートを続けなければならない。変わらないことよりも、変わったことにより着目して世界を見ていかなければならない。

単純化本能から逃れるには?一つの視点だけで物事を見てはいけない

世界が複雑になればなるほど、我々は物事をできるだけ単純化して理解したいと考えてしまう。ついつい一つの視点だけで物事を判断しようとしがちである。


そのため、自分が支持する考え方が唯一正しいと過信してしまう傾向がある。この偏りをなくすためには、自分の考え方が正しい例を集めるのではなく、違った考え方に耳を傾けるようにすることである。実際に、何かが100%正しくて、別の何かが100%間違っているということは少ない。例えデータ(数値)が一つであっても、それをどのように解釈するのかは、解釈する人の立場によって異なるものだ。自分の考え方や視点が、全ての人々に普遍的でないことを自覚しておく必要がある。


専門的な知識、豊富な経験は我々の頼もしい武器であることは間違いないが、いつも通用するわけではない。


犯人捜し本能から逃れるには?誰かを責めても問題は解決しない。

何かネガティブなことが起きた時、「一体誰のせいなんだ!」と考えがちである。誰かを犯人に仕立て上げることで、問題が解決したと勘違いしてしまうことがあるが、犯人を見つけても問題は何も解決しない。犯人、とされた人がなぜそのような行動を取ったのか、その背景にある根本的な原因に辿りつき、それを取り除かなくてはならない。でなければ、その人はまた同じ行動を繰り返すか、彼ではない他の誰かが同じ行動を繰り返すことになる。


逆に良いことがあったときもそうだ。誰か一人のヒーローによって成し遂げられたのではなく、その成功を支える基盤を創り上げた人たちの存在に注目し、その功績をもっと認めることも必要である。


焦り本能から逃れるには?今すぐしなくちゃならないことは少ない

「いつやるの?今でしょ」課題を先延ばしせずに、すぐに行動を起こすことは悪いことではない。むしろ褒められるべき習慣だ。

「Just Do It」「今日まで特別セール」「今だけの限定品」「先着10名まで」「たった3日で人生を変える」・・・世の中には、今すぐの行動を駆り立てるキャッチセールで溢れている。自由資本主義の中に身を置いている以上、これは当たり前のことでもある。企業は、できる限り多くの人に、今すぐ商品を買ってもらいたい。今すぐ買ってもらうために、あの手この手で「今が一番お得!」をアピールしてくる。そして実に多くの人が、焦燥感に負けて商品に手を伸ばしてしまう。


社会で起きている問題も同じである。今すぐに行動を取らなければならないと訴えられた場合に、焦りに任せて急いで取った行動が必ずしも賢明ではないことがある。誰か特定の人たちの個人的な利益に結び付いていることもある。


未来を予測することはとても不確かなことだ。未来が不確かであることを認めない予測は、疑ってかかった方がいい。特に大胆でドラマティックな対策を促すような予測は、その副作用にも注意しなければならない。一歩一歩地道な努力の積み重ねの方が、たいていの場合において効果的である。一夜にして世界が変わることは、映画の中以外にはない。


ファクトフルネスを使って世界を正しく見る2つの効用

以上、ここで挙げた10の思考本能を自覚し、うまくコントロールすることで世界はより正しくみることができるようになる。


GPSが発達して目的地にたどり着くまでに道に迷ったりすることが以前よりも少なくなっているように、正確なデータは、我々が将来向かうべき方向や目的地をより正しく示してくれる。


そして、事実を正しく見ることによって、世の中は、色々な困難や課題が沢山あるけれども、それ以上に良くなっていることで溢れていることを知ることができる。我々は過度に悲観的になる必要はなく、もっと前向きに未来を創造していく期待と勇気を持つことができる。


プロジェクトマネジメントへの応用

このファクトフルネスは、プロジェクトマネジメントにも大いに役立つ。PMBOKでは、計画に対して実績がどのように推移しているかを「監視(モニタリング)」するプロセスの重要性を説明しているが、このモニタリングを正しく事実に基づいて実行する上で、この10の思考本能によるバイアスを回避する方法を知っていることが非常に有意義であると考える。プロジェクトを実行しているメンバーは多かれ少なかれ主観的な視点から逃れられないし、それを補うための客観的な立場であるPMOメンバーでも、誰もがここに挙げた思考本能を内在する人間である以上、何らか事実を歪曲して見てしまう危険性は有しているのである。


PMOは、どんなに知識や経験が豊富であっても、プロジェクトの現場で起きている事実を正しく捉えることに、常に真摯で謙虚でなくてはならない。






 
 
 

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