モノを売らない百貨店
- Akihiro Goto
- 2020年7月29日
- 読了時間: 4分
あらゆるビジネスで、顧客との関係性を再定義する時代

7月22日公開のNewsPicks WEEKLY OCHIAI「小売・百貨店のニューノーマル」の中で、丸井Gの社長が「これからは、お客様にモノを売ることを目的としない百貨店をつくっていきたい」との発言が印象的であった。今や、モノを売る手段は多岐にわたり、顧客がモノを買うために百貨店に足を運ぶという選択は減ってきている。しかし、百貨店がもつ魅力を再定義すれば、百貨店はこれからも人を惹きつけることができる。そのために、モノを売ることではない、他の価値を提供する百貨店の在り方を追求していきたい、という主旨であった。
これは、百貨店とお客様の間の新しい関係性(エンゲージメント:信頼の絆)を築いていくにあたり、最終的にお客様にモノを売ることが目的だと、エンゲージメントはいつまでも築けないという問題意識から来ているとのことだが、これには私も一人の消費者として非常に共感してしまった。
お店へ出かけた時、店員の方と暫く友人のような会話を楽しみ、親しみを感じることがあるが、店員の最終的な期待は私が商品を購入することであり、所詮販売員(営業マン)と顧客の関係であるという感情を拭い取れない。優秀な販売員は、顧客のこの感情を最小化し、顧客がモノを買わされていると感じないコミュニケーションに長けていると言えるが、そうでない販売員は、モノを売りたいという目的が前面に現れるので、逆にこちらは幻滅したり、不信に感じることがある。最近、車を買い替えたのだが、これまで乗っていた車の担当営業マンは、若いのに非常に信頼のできる人だったので、できればその人から新しい車も買ってあげたかったのだが、残念ながら次の車に求める条件を満たす車種がなく、他ブランドへスイッチしてしまった。できれば、次の車の面倒もこの営業マンが見てくれればとても安心なのだが、勿論そうはいかない。
百貨店で顧客を迎える販売員が、商品を売るメーカーの販売代理ではなく、顧客が求めることに寄り添う顧客の代理である立場を取ることが顧客との新しい関係性かも知れない。殆どの商品はネットで購入可能だが、リアルな実物を手に取りたいこともあるし、また、他の商品と組み合わせたときのトータルコーディネートを試したいこともある。その時に、自分とは異なる視点と知識を持つ他人の意見を聞きたいときもある。百貨店は、これらの体験を提供することに価値を追求する。顧客が何も買わず、手ぶらで帰っていっても、何ら気にすることはない。
では、百貨店はどうやって利益を得るのか?
・自社オンラインストアでの商品販売
・ショップからのテナント料収入(広告料収入)
・メンバー会員費収入
・イベント開催による収入
・オンサイトでの商品販売(販売員が商品を売ることに固執しないとは言え、顧客が商品を気に入り、すぐに欲しいと思えば、即購入となるだろう)
百貨店は、顧客が商品と触れ合う「体験の場」となるので、出店するショップは、販売拠点という役割以上に、顧客とのエンゲージメントを高めるアンテナショップ的な役割を期待する。その前提として、百貨店が、顧客にとって魅力的なPlaceであり、特に良質な顧客を惹きつけるPlaceであるという価値を提供する。ショップにとって、その百貨店へ出店することが顧客エンゲージメントを高める上で戦略的に有効であるという動機が重要となる。
顧客との関係性の再定義へのチャレンジ
私は小売業のことは全くの素人なので、残念ながら、これ以上の考察を進めるだけの知恵がない。ただ、なんとなくこの話題が興味を惹いたのは、百貨店に限らず、あらゆるビジネスにおいて、顧客(クライアント)との関係性を見直し、再定義する時代が来ているのだという実感を持ったからである。
私が属するコンサルティング業も例外ではないと考えている。多くのコンサルタントは、「顧客の利益を第一に考え、顧客のパートナーとして献身的に支援する」ことを標榜するが、コンサルタントと顧客の間の関係が、金銭的な契約に基づく受注先と発注先の関係を超えられないのも事実である。過去のブログ「人月商売からの脱却」にも書いたように、コンサルティング業界も、成果主義と言いつつ、それに目を瞑るかのように従来の商慣習を続けているのが実態である。
顧客との関係性の再定義が、人月商売からの脱却にも関わる問題であるように思っている。
ちなみに、コンサルティング業界でいう顧客はクライアント、ITシステムや制度・方法論をパッケージ化したソリューションを提供するベンダはメーカー・ショップであるが、特定のベンダ側の立場から、商品(ソリューション)をクライアントへ押し付けようとするコンサルタントがいることも事実であり、これは百貨店業界の流れの逆を行く、愚の骨頂である。
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