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ジョブ型雇用は、日本で普及するのか?

  • 執筆者の写真: Akihiro Goto
    Akihiro Goto
  • 2020年7月14日
  • 読了時間: 7分

最近、「ジョブ型雇用」というキーワードをメディアでよく見かけませんか?コロナ禍でリモートワークが急激に普及していますが、このリモートワークと相性が良い人事制度が、ジョブ型雇用であると言われています。元々、欧米で広く受け入れられている制度であり、対照的に日本では馴染まないと言われてきました。

プロジェクトというのは、このジョブ型雇用の要素があるので、少し考察したいと思います。

「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」の違い

日本企業の多くは「メンバーシップ型雇用」だと言われています。日本企業では、スペシャリスト(特定専門領域に特化した人材)よりもゼネラリスト(企業内の業務を広く経験した人材)を育成することに力を注いできました。終身雇用により社員は一つの会社で長期に勤続することを前提にしていたので、会社の中の部署を転々とし、会社のことを知り尽くし、社風への順応や人間関係の構築が評価される基準でした。多くの日本人が疑問を持たない社命による転職や部署異動というのも、メンバーシップ型雇用の典型的な特徴です。


一方「ジョブ型雇用」というのは、企業内に存在する全てのポストは、その職務を遂行するのに必要なスキル要件が予め定義され、その条件を満たす人材が登用される、という考え方に基づいて運用されます。職務の必要条件を明文化したのが職務規定書、ジョブディスクリプションです。このジョブディスクリプションにより、どの部門や役職であっても、業務内容、責任範囲、求められるスキル(技能や資格)が明確に示されます。さらに、そのジョブディスクリプションに応じて職務価値、すなわち報酬まで定義されます。


ジョブ型雇用では、ジョブディスクリプションへのマッチ度が高いほど、その職務にふさわしい人材ということになるため、いかに特定の専門性を有するか、が個人のキャリア形成にとって重要です。特定の会社の内部事情に長けていることはあまり意味はなく、自分の専門領域においてスキルがどれだけ尖っているのか、が重要になります。優秀な人材は、スキルを磨くためによりチャレンジングなポストを求めて社内外を問わずホッピングしていくため、流動性の高い欧米型の人事制度の主流となっています。

なぜ、コロナ禍でジョブ型雇用が注目されているのか?

メンバーシップ型では、個人の成果よりも組織やチームの成果を重視するため、個人の目標や責任範囲というのは曖昧になりがちです。また、評価の視点も、アウトプットされた結果だけでなく、その過程における本人の努力、周囲への協力など、総合的に評価される傾向があります。一方ジョブ型は、個人に求められる目標や責任が明確なので、評価はアウトプットが全て、という傾向が強くなります。


個人よりもチームプレーを重んじてきた日本企業が好むメンバーシップ型が、コロナ禍のリモートワーク・シフトにより、その制度が急速に機能しなくなりつつあります。リモートワーク環境下では、もちろんチームや部門はこれまで通り存在するものの、仕事としての単位は、限りなく「個人」へ分解されることになったからです。言い方を替えると、個人レベルの独立タスクまで分解しなければ業務フローが回りませんし、効率も上がりません。そして、各個人の成果を測るには、途中でどんな努力をしたかということはもはや重要ではなくなり(そもそもリモートでは知る由もない)、アウトプットの品質やスピードが唯一の物差しになりつつあります。これはまさしく、ジョブ型雇用制度の思想そのものであるため、高い注目を集めているわけです。

プロジェクト管理は、元来「ジョブ型雇用」の思想

プロジェクトは、特定の目的達成のために、有限のリソース(期間、人材、お金、設備など)を前提に計画されるため、プロジェクトの目的を分解していくと、各プロジェクトメンバーに求められるスキル要件・責任範囲が明確となり、少しでもプロジェクトの成功確率を上げるために、各ポストによりマッチした人材を招聘アサインすることが重要なマネジメントの一つとなります。もしアサインした人材が要件を満たさず、成果をあげていなければ、プロジェクトはその人材をスイッチすることが可能であり、実際、そういうことはよく起こります(社外人材であれば、契約を終了させればよいだけですが、社内人材の場合は人事異動などの制約により、簡単にいかない場合もあります。ただし、これはメンバーシップ型の弊害を受けているとも言えます)。


OJT(On the Job Training)は、日本ではポピュラーな教育方法であり「現場で経験を積みながら成長しよう」という考えの下、必ずしもジョブディスクリプションにマッチしていない社員をプロジェクトに登用したりすることがありますが、これは元来のジョブ型雇用の思想にはありません。ジョブ型雇用、そしてプロジェクトは、各ポジションの専門家が集まり、各自が忠実に職務責任を遂行することにより、全体の目標を達成することを前提にしているからです。

「ジョブ型雇用」への移行は、相当に困難なはず

リモートワークになって、これまでとは働き方が変わるな、上司(クライアント)からの評価も変わるな、と実感している人は多いと思います。だからこそ、ジョブ型雇用が叫ばれるようになったわけですが、ただ、これまでメンバーシップ型に浸りきってきた企業や社員が、いきなり明日からジョブ型雇用へ移行できるかと言うと、そのハードルはかなり高いと思っています。なぜなら、これは単なる制度の変更ではなく、その背景にある思想・価値観の転換を伴うからです。


個人主義が強い欧米においては、リモートワークとか関係なく、ジョブ型雇用は理にかなった制度と言えます。会社への終身のロイヤリティを持たない中で、個人にとっての仕事は、連続するキャリアアップの機会の1つにしかすぎず、ジョブディスクリプションという会社との「契約書」に基づき、報酬などの自己利益との天秤で契約を延長するなり解除するなりを意思決定しています(※報酬は、必ずしも金銭面だけでなく、仕事から得られる自己実現の度合、企業理念への共感度、など多様です)。米国においては、地理的に遠隔であるためにコロナ禍の以前からリモートワークのような働き方が普及していますし、この個人主義思想と相まって、ジョブ型雇用の土台がしっかりと築かれているのです。


日本では、個人主義よりも集団主義を尊重する思想を背景に、狭い国土の中で物理的にも集中せざるを得ない制約を活かして「同じ釜の飯を食う」的なアプローチでチームワークを醸成し、ジョブディスクリプションがなくても各自が自主的に動き、ボールを拾い合いながら仕事をこなし、会社を成長させてきました。欧米企業からすれば、ジョブディスクリプションがないのに(各社員の職務が明確でないのに)日常の仕事が回っているという日本企業が不思議に見えているはずです。このお家芸、独特のプレースタイルが定着しているわけです。それがリモートワークによって、いきなり思想や行動を大転換せよというのは、かなり無理があると言えます。

何をまず最初に変えるべきなのか?

メンバーシップ型の従来スタイルに固執し、コロナ禍が明けて元通りになることを待ちわびるのであれば、無理にジョブ型雇用へ移行する必要はありません。個々の企業として、そういう選択もあっていいとは思います。ただ、日本の国際競争力の低下に歯止めがかからない今(IMDの発表した2020年ランキングで34位。前年は30位)、国全体としては新しいパラダイムシフトを目指さなければ、未来はさらに悲観的になってしまいます。


日本再生のために色々な提言が出ていますが、ジョブ型雇用の移行に先立ち、私は「個人が会社の枠にとらわれない自立した環境を整備しなければならない」という提言に共感を覚えました。ジョブ型雇用の前提は、個人が自らのキャリアに責任を持つという主体性です。プロ野球の選手のように単年度年俸制であり、翌年の待遇は今年の個人成績次第、という覚悟を持って仕事に向き合うということです。この根本的な個人価値観のシフトがない中でジョブ型雇用の制度だけ導入しても、ジョブディスクリプションはすぐに形骸化し、むしろマイナス面のみが目立つ結果が待っていることでしょう。


この価値観のシフトは、個人の意識の問題だけではなく、会社(トップ)も覚悟を決めて、社員に対してパラダイムが変わることを宣言する必要があると思います。これは、会社として社員への態度を変え、厳しくなるということではなく、会社と社員の関係を対等で独立した関係へ是正することで、結果として社員の自立を促し、成長を支援するということです。これまで、社員は会社に従属しており、会社は社員へ色々な要求をできる代わりに、社員を守っていくという互助(もたれ合い)の関係から脱却するということです。


我々は、想像以上の大転換期に直面しています。

 
 
 

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